クローン病と痔瘻(じろう)

アロフィセルの適応疾患であるクローン病と痔瘻について、くわしく解説します。

クローン病について

クローン病で炎症が起こる場所クローン病は、消化管粘膜に原因不明の炎症が起こる病気です。炎症は主に小腸や大腸で起こりやすいのですが、口、食道、胃、十二指腸など消化管のあらゆる部位にみられます。

クローン病では主に腹痛、下痢、体重減少、発熱などの症状がみられ、良くなったり寛解期(かんかいき)、悪化したり(活動期)をくり返すことが特徴です。

また、炎症をくり返すうちに消化管のダメージが蓄積(ちくせき)し、腸管に穴が開いて腸管どうしがつながったり(瘻孔(ろうこう)形成)、腸管が硬く狭くなったり(狭窄(きょうさく))することがあり、手術を行うこともあります。

クローン病で炎症が起こる場所

病変の特徴

病変の特徴

難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班)
「クローン病の皆さんへ 知っておきたい治療に必要な基礎知識」p6, 2020年3月改訂.(許可により改変)

クローン病では、このような炎症によるダメージを減らして病気を進行させないことが重要となります。

炎症がある場合にはすみやかに症状を落ちつかせる治療を行い、一旦寛解(かんかい)状態になった後も、長期にわたり炎症をコントロールする治療が必要になります。

クローン病でみられる肛門部病変

クローン病では肛門に以下のような病変ができやすいことが知られています。
また、これらの肛門部病変は、再発をくり返しやすい傾向があります。

クローン病でみられる肛門部病変

クローン病による炎症や潰瘍(かいよう)が肛門に発生したもの

肛門潰瘍(かいよう)肛門内に潰瘍(かいよう)ができている状態

裂肛(れっこう)肛門から近い部位にできたびらんや潰瘍(かいよう)、裂けた状態

クローン病の症状が原因となって肛門に発生したもの

痔瘻(じろう)瘻孔(ろうこう)といって、肛門内の病変から肛門の周りの皮膚までトンネル状に穴が通じている状態

肛門膿瘍(のうよう)痔瘻(じろう)の中に(うみ)がたまってはれている状態

皮垂(ひすい)裂肛(れっこう)の後で皮膚のたるみができて大きくはれている状態

肛門潰瘍と裂肛 痔瘻と肛門膿瘍、皮垂

高橋賢一, 羽根田祥: Medical Practice 2016; 33(5): 761-765.(改変)

クローン病に伴う痔瘻(じろう)について

瘻孔(ろうこう)の直腸側の入口を原発口(げんぱつこう)、お尻側の出口を二次口(にじこう)といい、それらの間のトンネルを瘻管(ろうかん)といいます。
瘻管(ろうかん)が1本でつながっている場合は単純痔瘻(じろう)、1つの原発口(げんぱつこう)に対して複数の二次口(にじこう)ができている場合や膿瘍(のうよう)がみられる場合などは複雑痔瘻(じろう)と呼ばれます。
クローン病における瘻孔(ろうこう)では、複数の瘻管(ろうかん)が同時にできたり、膿瘍(のうよう)ができたりと複雑痔瘻(じろう)を形成しやすい特徴があります。

クローン病に伴う肛門周囲瘻孔について

膿瘍(のうよう)ができると、肛門周囲に痛みや発赤、はれが突然起こります。
特に、膿瘍(のうよう)の位置が深いと、小骨盤(しょうこつばん)(骨盤の下の部分)の鈍痛や背中の痛みが生じ、発熱や不快感などの全身症状を伴うこともあります。
また、(うみ)が出続けたり、肛門周囲のはれや圧痛があったり、肛門が狭くなったりするため、日常生活に支障をきたす場合もあります。

痔瘻(じろう)の治療について

痔瘻(じろう)の治療には、外科治療と薬物療法があり、瘻孔(ろうこう)の状態や症状の程度、腸管の病状や再発の可能性などを考慮して治療方法を決定します。

外科治療

痛みや(うみ)などの症状をやわらげるには、外科治療によってドレナージ((うみ)滲出液(しんしゅつえき)などを体外へ排出すること)を行うことが効果的です。

※炎症などにより血管とその周りの組織との間で起こる水分や栄養分などの移動が進んだ結果、組織や細胞からしみ出た液体。

切開解放術 瘻孔(ろうこう)を切り開いてたまった(うみ)を取り除きます。単純で浅い痔瘻(じろう)に対して行われることが多いです。
シートン
ドレナージ
シートンドレナージシートンとは「ひも、糸」という意味です。シートン(医療用チューブなど)を瘻孔(ろうこう)に通して数か月留置し、内部にたまった(うみ)を持続的に排出します。膿瘍(のうよう)が広範囲に多数あり、一定の深さを有する肛門部病変の場合に行われることが多いです。
シートンドレナージ
再生医療
による治療
ヒトの幹細胞(かんさいぼう)を応用した治療で、炎症や免疫反応を抑えることで、瘻孔(ろうこう)周囲の組織の治癒(ちゆ)を促します。瘻孔(ろうこう)にたまった(うみ)を取り除いてから、瘻管(ろうかん)に沿って細胞を注入します。

> ヒトの幹細胞(かんさいぼう)を応用した治療についてはこちら(再生医療等製品とは)

人工肛門
(ストーマ)
造設術
上記の治療を行っても、痛みや(うみ)の排出が制御できない瘻孔(ろうこう)や排便機能が低下して便失禁を伴う場合などは、日常生活に著しい支障をきたす可能性があるため、人工肛門(ストーマ)の造設が適用されます。

薬物療法

シートンドレナージなどの外科治療の後に行うことで、症状の軽減や再燃の予防が期待できます。

抗菌薬 感染症に使用されるお薬で、クローン病にも使用されることがあります。
肛門膿瘍(のうよう)による痛みや(うみ)の発生を抑えます。
免疫調節薬と併用することもあります。
免疫
調節薬
免疫反応を抑えるお薬で、もともとは臓器移植の際の拒絶反応を抑えるために開発されましたが、クローン病でも使用されるようになりました。
瘻孔(ろうこう)治癒(ちゆ)を助ける可能性があります。
生物学的
製剤
痔瘻(じろう)の原因となるクローン病の治療に使用されます。
生物が作るタンパク質をもとにしたお薬で、特定の物質をターゲットとするよう設計されています。
従来の治療ではなかなか炎症を抑えられない場合に用いられる治療薬です。
クローン病で使用される生物学的製剤には、炎症を引き起こすタンパク質(サイトカイン)のはたらきを抑えるお薬と、炎症を引き起こす細胞(リンパ球)が消化管の組織へ侵入するのを防ぐお薬があります。